「こんにちは、マキです。排せつケアで何かお困りなことがありましたら、お聞かせ下さい」
2月オープンした専用サイト「大人用おむつNAVI」は、女性キャラクター「マキさん」がサイト訪問者を迎える。
外出頻度や介助者の有無、自力で起き上がれるかなどの質問に回答を打ち込むと、画面上で30種類以上のラインアップから最適のおむつを推薦する。立ち上がれない高齢者への紙おむつの履かせ方や、医療費控除の適用の有無など、これまでコールセンターに寄せられた2万件以上の問い合わせをAIが読み込み、システムを開発した。
高齢化に伴い需要が拡大する大人用紙おむつ。最大手のユニ・チャームでも主力ブランド「ライフリー」の販売は好調だ。少子化で国内市場が頭打ちの子供用に比べ、年率5%前後の成長が続く。一方、紙おむつの着用に対する消費者の心理的抵抗感は強い。「店頭で店員に排せつケアについて、問い合わせるのをためらう利用者は少なくない」(同社の渡辺仁志氏)。
気軽に問い合わせができるコールセンターの重要性は高く、従来、平日の午前9時半から午後5時まで電話窓口で対応してきた。だが大人用紙おむつの需要の増大で、コールセンターへの問い合わせ件数は16年に12年比でほぼ倍増。現場の負担が増していた。
コールセンター業務へのAIの導入は、金融やシステム会社で事例があるが、消費財産業では珍しい。今後もコールセンターの運用は継続するが、おむつNAVIとの併用で、「コールセンターの負担を減らし、問い合わせ対応の質を高められる」(渡辺氏)。
AI利用のもう1つのメリットはインターネット通販との連動だ。現在、国内の紙おむつ販売に占めるEC化率は1割程度とみられるが、日本よりもネット通販の普及に先行する中国の都市部では、紙おむつ購入の過半はEC経由とされる。遠からず日本でもECシフトが進みそうだ。おむつNAVIの利用が定着すれば、同サイト経由で紙おむつのECサイトの購入に誘導しやすくする。
AIによる顧客データの蓄積・分析を通じたマーケティングへの応用も有望だ。これまでもユニ・チャームはコールセンターで受け付けた顧客の要望や不満を商品の改良に反映させてきた。データベース化が容易なおむつNAVI経由の問い合わせが増えれば、より定量的で緻密なマーケティングが可能になる。
高原豪久社長は生産や商品開発を含めたユニ・チャームの事業全体にAIを活用することを狙っている。社内ではAI活用を担当する部署も設けている。活用事例はまだわずかだが、18年末に稼働する福岡工場(福岡県苅田町)は生産の自動化を進めた最先端の工場となる見通し。AIの積極的な活用を視野に入れる。ユニ・チャームにとって、おむつNAVIは今後のAI活用を占う試金石となりそうだ。