2018/05/10 ユニ・チャーム高原豪久社長 異様なほどのこだわりを

ユニ・チャーム 高原豪久社長(56)

 ユニ・チャームは、世界初のベビー用パンツ型おむつ「ムーニーマン」やマスクの概念を一変させた「超立体マスク」など、数々のヒット商品を生み出してきた。根底にあるのは消費者の「不快」を「快」に変えていくという執念だ。日々膨大な情報が生み出され、ビッグデータの活用競争が激化する時代にどんなリーダーが求められているのか。高原豪久社長に聞いた。

 ――創業者である父親の慶一朗氏から社長を引き継いで17年がたちました。

 「競争環境は日に日に厳しくなっており、マンネリに陥っている暇はありません。あらゆるモノがネットにつながる『IoT』や人工知能(AI)など技術の進化は驚異的です。トップマネジメントもそれ以上に進化しなければ、厳しい時代を勝ち抜くことはできません」

 「今日の最高経営責任者(CEO)には、最高情報責任者(CIO)の素養が必要だと思います。『I』はインフォメーションであり、インテリジェンス。玉石混交の情報の中から本当に重要な『玉』だけをスピーディーにつかみ取り、先手を打って商品やサービスに結びつけていく力が求められています」

 ――ユニ・チャームは1週間単位でPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回すスピード重視の経営で知られています。

 「ただ、物事の動きが速くなり、今では週単位でさえ通用しなくなっている。最近は、米空軍で提唱されたというOODA(ウーダ)ループへと進化させていく必要性を感じています」

 「ウーダで最初にやることはオブザベーション(観察)です。PDCAは計画から入りますが、計画を立てるには時間がかかるし、外れていればかえって非効率を生むこともあります。変化のスピードが増している今は、時間をかけて計画を立てるより、まずは実態を観察し、本物の情報を得ることが先決だという考え方です。情報が本物かどうか見極めるのに必要なのは直感です。直感は思いつきではなく、経験の積み重ねから磨かれるものです」

 「次に、オリエンテーションは情勢判断と方向付け。そして最も大事なのはディシジョン(意思決定)を速くすること。アクションもスピード勝負です。このOODAをしっかり回せることが今後のリーダーの条件ではないでしょうか」

AI、感性にまだ勝てない

 ――ビッグデータの活用も競争が激しいです。

 「消費者の心の琴線を探り当てられるのは、データなのか、人間の感性なのか。私は両者のせめぎ合いはこれからも続くと思います。大量のデータを24時間365日集めて、そこからインサイト(洞察)を抽出するというのは、理屈としては正しいですが、今のデータの取り方はまだまだ不完全で、それができていないというのが現状でしょう」

 「例えば、ユニ・チャームの紙おむつ『ムーニー』を、いつ、どういう人が、どこで買ったのかは分かりますが、使ってみてどう思ったのかまでは分からない。使用時の脳波や心拍数など、いわゆるバイタルデータが正しく取れて分析できるようにならない限り、人間の感性にAIはまだ勝てないのではないでしょうか。感性を磨きつつ、データ活用の技術向上も続けるといった両にらみがしばらく続くと思います」

 ――そういう時代のリーダーに必要な素養とは。

 「語呂合わせみたいになりますが、僕は『理性、感性、野性』だと思っています。こう言うとおこがましいですが、日本の経営者にいま一番足りないのは、野性でしょう」

 「野性はワイルドという意味もありますが、私が社内で使っているのは『異様なほどのこだわり』という意味です。アジアには、お金であろうと地位であろうと、そうしたモチベーションを持った経営者がゴロゴロしています。彼らと戦っていくには日本の経営者も、何かひとつのことに対して異様なほどのこだわりが必要です」

 「いま日本は働き方改革の論議が盛んですが、時短みたいなことばかりに目が向いてしまうことには、危機感もあります。やはり、時間を忘れてやるくらいの偏執的な要素が根底になければ、イノベーションは生まれません。本当に苦しい時の下支えになるのも野性です」

 ――高原社長にとっての野性とは何ですか。

 「仕事が好きで、仕事を通じて社会に貢献したいという欲求が強いということだと思います。これは祖父も父も経営者だったことが影響していると思います。結局、理屈でなく、仕事とプライベートが不即不離なのです。ユニ・チャーム=自分そのものと、自然に違和感なく思っているのです」

 「もちろんオーナーでなくても優秀な経営者はたくさんいます。しかし、どこかで『仕事としての経営』『職業としての経営者』という側面があるかもしれません。しかし、オーナー経営者には『この会社でのキャリアが終わったら、次の会社へ』という選択肢はあり得ません。だからこそ、いつまでも努力をし続けても苦にならない。そこが違いではないでしょうか」

ESGをぶれず追求

 ――いま、目指している高みは何ですか。

 「創業から57年たったいま、私自身が目指すのは当社を100年を超えて社会に貢献し続ける会社にすることです。最近、ESG(環境、社会、企業統治)の3つの要素を考慮した経営をすることが会社の長期的成長につながるといわれますが、ユニ・チャームの経営理念である『赤ちゃんからお年寄りまで、すべての生活者がいつまでも快適に自分らしく暮らせる社会の実現』はまさにそこに合致する。これをぶれずに追求していきます」

 「いま力を入れているのは使用済み紙おむつのリサイクル事業です。技術的には確立しましたが、再生資材を用いた紙おむつを我が子に使うというのは、相当に心理的なハードルが高い。根気強い啓発活動が必要だと覚悟をしています」

 「自然保護へ真剣に取り組まなければ、森林資源はいつか枯渇する。100年企業になるには、そこまで視野に入れて何十年も前から手を打っていかなければなりません。データサイエンスで、いかにその心理的な壁を乗り越えていくためのインサイトを発見できるか。これはいま、私にとって非常に重要な研究課題の一つです」

砂漠で「非日常合宿」

 経営幹部は3~4年ごとの中期経営計画を立案する際に、「非日常合宿」に参加する。高い目標を達成するための「団結」と「厳しさ」を疑似体験する目的があり、高原社長が考案した。中東の砂漠地帯や屋久島などにも行ったが、最近挑戦したのはファスティング(断食)だ。口にするのは1日4回の酵素ジュースのみ。「経営計画に関する討議もしますが、だんだん、ろれつが回らなくなって……。やっぱり脳には糖分が必要だというのが嫌というほどわかりました」と笑う。