今春の決算発表では、市場の期待を上回る好決算や、逆に期待外れの決算が相次いだ。株価が大きく動いた銘柄も多い。なぜ市場は意表を突かれたのだろう。国内外のサプライズ決算の実像を検証した。
9日午後の東京株式市場。ユニ・チャーム株が動意付いた。一時前日比4%高の3200円と年初来高値を更新、売買代金は前日の4倍に膨らんだ。
「ノーマークだった」。ユニチャーム株から化粧品専業株に保有銘柄を乗り換えていたファイブスター投信投資顧問の大木将充取締役運用部長はユニチャームが9日の昼休み時間中に発表した2018年1~3月期決算に驚きを隠さない。
営業利益は前年同期比3割増の247億円と過去最高を更新。アジア事業の売上高営業利益率は急上昇した。なかでも市場に驚きを与えたのは中国だ。越境EC(電子商取引)を通じた中国への紙おむつ輸出額が前年同期比2・6倍に膨らんだ。
現地生産を転換
1980年代からアジアにいち早く進出し「アジアの優等生」のイメージが強いユニチャーム。中国には95年と花王より10年以上前に進出したが、実は苦戦していた。
英調査会社のユーロモニターによると、17年の中国おむつ市場のシェアでユニチャームは4位(8.3%)。12年(2位)からじりじりシェアを落とし、現在は3位の花王(11.1%)の後じんを拝する。
中国で苦戦したのは、過去のアジアの成功体験にとらわれたからだ。
現地製販でアジア各国を開拓した過去の成功体験がしがらみとなり、中国の環境変化への対応が後手にまわった。ユニチャームは安価な現地生産品にこだわり、なかなか営業戦略の修正に踏み切れなかった。
中国のおむつ不振でアジア事業は16年12月期まで2期連続の営業減益だった。一方、花王は09年に中国への日本製おむつの輸出を開始。15年には越境ECを始め、中国向けおむつ事業で着実に利益を出す。
ユニチャームは16年ごろに現地生産品にこだわる戦略を転換。アリババ集団や京東集団(JDドットコム)のECサイトに多額の広告・マーケティング費用を投じ、17年に入ってから中国でのブランド力が格段に高まってきた。その成果が1~3月のサプライズ決算としてあらわれた。
4月以降も中国の好調は続いている。
5月12日深夜。週末のユニチャーム中国現地法人オフィスで、紙おむつの営業担当や顧客サポート部隊が緊張した面持ちで時計が13日午前0時を回るのを待った。アリババ集団と並ぶ中国のネット通販大手、JDドットコムが13日から始める大規模な販促イベント「スーパーブランドデー」に備えるためだ。13日は午前0時と同時にユーザーから日本製おむつへの注文が殺到し、通常の10倍の売上高を記録した。
中国では今やおむつの売れ筋は現地生産品より価格が高い日本製だ。経済成長で可処分所得が増えるとともに「子どもが身に着ける製品への品質要求が高まっている」(ユーロモニターの山口大海シニアアナリスト)。
花王の背中追う
花王から2~3周遅れで巻き返しを狙うユニチャーム。18年末には福岡県で新工場が稼働し中国への供給力が高まる。
「この紙おむつは柔らかくてしかも漏れにくい」。アリババが運営するECサイトでは、日本語のパッケージのままのユニチャームの紙おむつに対する口コミが4万件以上も集まる。価格は2パックで198元(約3500円)だが、口コミで評価が広がる。
ユニチャーム株は11日に一時3340円まで上昇し、15年3月につけた分割考慮後の上場来高値(3398円)に迫った。投資家からは「アジアの業績が一段と高まる兆しが見えれば再び投資することも考えたい」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成上席執行役員)との声がでる。
もちろんライバルが築いた壁は高い。中国で2割を超えるシェアを握る米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や2位の米キンバリー・クラークの知名度は圧倒的だ。加えて「中国現地企業の製品も品質が上がっている」(投資家向け広報担当者)。ユニチャームが成長市場の中国でどこまで存在感を示せるか、投資家が確信を強めるにはまだ時間がかかりそうだ。